…。
私が、その張本人の水夫長だったのだ……。
……どこかで、お寺の鐘が鳴るような……。
硝子世界
世界の涯《はて》の涯まで硝子《ガラス》で出来ている。
河や海はむろんの事、町も、家も、橋も、街路樹も、森も、山も水晶のように透きとおっている。
スケート靴を穿《は》いた私は、そうした風景の中心を一直線に、水平線まで貫いている硝子の舗道をやはり一直線に辷《すべ》って行く……どこまでも……どこまでも……。
私の背後のはるか彼方《かなた》に聳《そび》ゆるビルデングの一室が、真赤な血の色に染まっているのが、外からハッキリと透かして見える。何度振り返って見ても依然としてアリアリと見えている。家越し、橋越し、並木ごしに……すべてが硝子で出来ているのだから……。
私はその一室でタッタ今、一人の女を殺したのだ。ところが、そうした私の行動を、はるか向うの警察の塔上から透視していた一人の名探偵が、その室が私の兇行で真赤になったと見るや否や、すぐに私とおんなじスケート靴を穿いて、警察の玄関から私の方向に向って辷り出して来た。スケートの秘術をつくして……弦《つる》を離れた矢のよう
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