袋を引っかぶせられて、チャンやタールで塗り固められて、足に錘《おもり》を結《ゆ》わえ付けられて、水雑炊《みずぞうすい》にされちまったんだ」
「……………」
「……それからなあ……ほかの奴らあ、船の破片を波の上にブチ撒《ま》いて、沈没したように見せかけながら、行衛《ゆくえ》を晦《くら》ましちまやがったんだ」
「……………」
「……その中でも発頭人《ほっとうにん》になっていた野郎がワザと故郷の警察に嘘を吐《つ》きに帰りやがったんだ。タッタ一人助かったような面《つら》をしやがって……ここで船が沈んだなんて云いふらしやがったんだ……」
「ホントウよ。オジサン……その人がお父さんとお母さんの前で、妾を絞め殺したのよ。オジサンはチャント知っていらっしゃるでしょ」
という可愛らしい、悲しい女の児の声が一番最後にきこえて来た。七本のまん中にある一番|丈《たけ》の低い袋の中から洩れ出したのであろう……。あとはピッタリと静かになって、スッスッという啜《すす》り泣きの声ばかりが、海の水に沁み渡って来た。
私は棒立ちになったまま動けなくなった。だんだんと気が遠くなって来た。信号綱を引く力もなくなったまま…
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