に一直線に……。
 それと見るや否や私も一生懸命に逃げ出した。おんなじようにスケートの秘術をつくして……一直線に……矢のように……。
 青い青い空の下……ピカピカ光る無限の硝子の道を、追う探偵も、逃げる私もどちらもお互同志に透かし合いつつ……ミジンも姿を隠すことの出来ない、息苦しい気持のままに……。
 探偵はだんだんスピードを増して来た。だから私も死物狂いに爪先を蹴立てた。……一歩を先んじて辷り出した私の加速度が、グングンと二人の間の距離を引離して行くのを感じながら……。
 私は、うしろ向きになって辷りつつ右手を拡げた。拇指《ぼし》を鼻の頭に当てがって、はるかに追いかけて来る探偵を指の先で嘲弄《ちょうろう》し、侮辱してやった。
 探偵の顔色が見る見る真赤になったのが、遠くからハッキリとわかった。多分|歯噛《はが》みをして口惜《くや》しがっているのであろう。溺れかけた人間のように両手を振りまわして、死物狂いに硝子の舗道を蹴立てて来る身振りがトテモ可笑《おか》しい……ザマを見やがれ……と思いながらも、ウッカリすると追い付かれるぞと思って、いい加減な処でクルリと方向を転換したが……私はハッと
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