は、こんなにキチガイ扱いされずとも済む私であったのだ。
そう気が付くと同時に私は思わずカッとなった。吾を忘れて、鉄檻の外の私の顔を睨み付けながら怒鳴った。
「……何しに来たんだ……貴様は……」
その声は病院中に大きな反響を作ってグルグルまわりながら消え失せて行った。しかし外の私は少しも表情を動かさなかった。診察着のポケットに両手を突込んだまま、依然として基督《キリスト》じみた憂鬱な眼付で見下しつつ、静かな、澄明《ちょうめい》な声で答えた。
「お前を見舞いに来たんだ」
私はイヨイヨカッとなった。
「……見舞いに来る必要はない。コノ馬鹿野郎……早く帰れ。そうして自分の仕事を勉強しろ……」
そういう私の荒っぽい声の反響を聞いているうちに私は、自分の眼がしらがズウーと熱くなって来るように思った……何故《なぜ》だかわからないまま……しかし外の私はイヨイヨ冷静になったらしく、その薄い唇の隅に微《かすか》な冷笑を浮かべたのであった。
「お前をこうやって監視するのが、俺の勉強なのだ。お前が完全に発狂すると同時に俺の研究も完成するのだ。……もうジキだと思うんだけれど……」
「おのれ……コノ人非人
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