眼をパッチリと開いて、こころ持ち微笑《ほほえ》みを含みながら、運転手と一緒に、一直線の真正面を見詰めて行った。あの反《そ》り身《み》になった澄まし加減がイカニモ人形らしかった……と思う中《うち》に又一台あとから自動車が来た。
 私はすぐに振り返ってみた。
 その自動車の主はパナマ帽を冠《かぶ》った紳士であった。赭《あか》ら顔の堂々と肥った、富豪の典型のような……それが両手をチャンと膝《ひざ》に置いて、心持ち反り身になったまま、運転手と一緒に、一直線の真正面をニコニコと凝視しながら、私の前をスーッと通り過ぎた。自動車の番号は11111……。
 ……人形だ人形だ。今の紳士はたしかに人形だった……ハテナ……オカシイゾ……。
 ……と考えているうちに私は又、石のように固くなったまま向うから来かかった自動車の内部を凝視した。
 ……今度は金襴《きんらん》の法衣を着た坊さんであった。若い、品のいい宮様のように鼻筋のとおった人形……それが心持ち眼を伏せて、両手を拝み合わせたままスーッと辷って行った。
 私はブルブルと身震いをした。あたりは森閑《しんかん》とした街路……大空は星で一パイ……。
 ……深
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