した。
 ……パラシュートを開かないまま百|米突《メートル》ほど落ちて行った。
 私と同じ姿勢で、パラシュートを開かないまま、弾丸のように落下して行く私そっくりの相手の姿……私そっくりの顔を凝視しながら……。

 ……はてしもない青空……。
 ……眩しい太陽……。
 ……黄色く光る層雲の海……。

       街路

 大東京の深夜……。
 クラブで遊び疲れたあげく、タッタ一人で首垂《うなだ》れて、トボトボと歩きながら自宅の方へ帰りかけた私はフト顔を上げた。そこいら中がパアット明るくなったので……。
 ……そのトタン……飛び上るようなサイレンの音に、ハッと驚いて飛び退く間もなく、一台の自動車が疾風《はやて》のように私を追い抜いた。……続いて起る砂ほこり……ガソリンの臭い……4444の番号と、赤いランプが見る見るうちに小さく小さく……。
 ……ハテナ……あの自動車の主《ぬし》は人形じゃなかったかしら……あんまり綺麗過ぎる横顔であった。着物はよくわからなかったが、水の滴るような束髪《そくはつ》に結《ゆ》って、真白に白粉《おしろい》をつけて、緑色の光りの下にチンと澄まして……黒水晶のような
前へ 次へ
全26ページ中11ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング