夜の東京の怪……私がタッタ一人で見た……。
私は、私の周囲に迫りつつある、何とも知れない、気味のわるい、巨大《おおき》な、恐ろしいものを感じた。一刻も早く家《うち》に帰るべくスタスタと歩き出した。
その時に私の前と背後《うしろ》から、二台の自動車が音もなく近付いて来た。
……私と……。
……私の夢の……。
……結婚式当日の姿……。
私は逃げ出した。クラブの玄関へ駈け込んで、マットの上にぶッ倒れた。
「助けてくれ」
病院
私はいつの間にか頑丈《がんじょう》な鉄の檻《おり》の中に入れられている。白い金巾《かなきん》の患者服を着せられて、ガーゼの帯を捲き付けられて、コンクリートの床のまん中に大の字|型《なり》に投げ出されている。
……精神病院らしい。
しかし私は驚かなかった。そのまま声も立てずにジット考えた。ここが精神病院だとわかれば、騒いでも無駄だからである。騒げば騒ぐほど非道《ひど》い目に合う事がわかり切っているからである。おまけに今は深夜である。かなり大きい病院らしいのにコットリとも物音がしない。……騒いではいけない、憤《おこ》ってはいけない。否《い
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