れ伏したまま、ワッと大きな声を立てて泣き出しました。私がお父様に打たれましたのは後にも先にも、これが初めてのお終《しま》いでした。
「まあ……あなた……何をなさいます」
 という声が台所の方から聞えて、お母様が走ってお出でになる気はいが致しました。それで私は起き上ってお母様の方へ行こうとしましたが、いつの間にか私はお父様から帯際《おびぎわ》を捉えられておりまして、息が止まるほど強く畳の上に引き据えられました。その拍子に私は、あまりの恐ろしさのためから泣き止んでしまったように記憶《おぼ》えています。
 お母様は結《ゆ》い上げたばかりの艶々《つやつや》しい丸髷《まるまげ》に薄化粧をして、御自分でお染めになった青い帷子《かたびら》を着ておいでになりました。そうして手を拭いておられた紙を左手の袂に入れながらお座敷の入り口で三ツ指をついて、
「お帰り遊ばせ……まあ……あなたは何故そのようなお手荒いことを……」
 と云いながら私に近寄ろうとなさいますと、私の背後《うしろ》から、お父様のお声が大砲のようにきこえました。
「……黙れッ。……そこへ坐れッ」
 お母様はビックリした顔をなされながら素直にお
前へ 次へ
全127ページ中63ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング