から生れて来るのでしたが、優しいのや厳《いか》めしいのが見ているうちに出来てくるその面白さ……。又は大きな大きな袱紗に、金や銀や五色の糸で縫い込まれた奇妙な形の花や蝶々が、だんだんと一つにつながり合った模様になって行くその美しさ……お父様は、そのようなお母様のお仕事を、丸い桐胴《きりどう》の火鉢の向うから私と一緒に御覧になるのが何よりのお楽しみのように見えました。時々は押絵の足につける竹などを削って御加勢なさるそのお優しさ。
私はまたおとなしい方で御座いましたのか、あまり泣いたりなぞしたおぼえはありませぬようで、六つか七つにもなりますと、お母様から小切《こぎれ》を頂いて頭の丸いお人形を作ったり、お母様が美濃紙《みのがみ》にお写しになった下絵をくり返しくり返し見たりして余念もなく遊ぶのでした。その中《うち》でも、お母様の押絵のお仕事を見るのが何よりの楽しみで、お父様が畠のお仕事をなされながら、お母様をお呼びになるのが恨めしい位に思われました。
ことに又、その中でも、お母様が押絵の人形の眼鼻口《めんもく》をお描きになる時にはきっと私を呼んで御自分の前に坐らせて、「右を向いて御覧」とか「
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