なことを申しますのは如何かと存じますけれども、これはやはりお父様とお母様と、それから私のことを目当てにして当てこすったもので、お母様が帯を縫ってお遣りになった力士の名前や、押絵にお作りになった、あなたのお父様の事などを輪に輪をかけて噂したものでしょう。私のお父様は前にも申しますように色の黒い逞ましいお方で、どちらかと申せば醜男《ぶおとこ》でおいでになったのに、お母様の方はまるでウラハラで、世にも珍らしく美しい方でしたので、いろいろな事を人が申しましたのも無理はないと思われます。
お父様は、そんな歌が流行《はや》り出してからというもの、毎日のお墓参りや、方々の神様や仏様への安産の御願《おがん》ほどきや、お礼参りのほかは、お母様を一歩も外へお出しにならなかったそうです。
もっとも、お父様は平生から冗談口一つ仰有らぬ真面目なお方でしたから、このような歌のウラに隠してある本当の意味はおわかりにならなかったでしょう。只、御自分の事が云ってあるので、お気に障《さわ》ったものらしく、そんな歌を意地悪るく家《うち》の表に来て歌う子守女たちを、お父様がキチガイのようになって、お叱りになる声が川向う
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