人に話しては笑ったという事を、ずっと後《あと》になって、聞きました。

 私が生れましたあと先の事で、後《のち》になって聞きましたことはまだいろいろあります。
 その中《うち》でも何より先に申上げなければなりませぬ事は、私が生れましてから間もなく流行《はや》り出しました手鞠歌《てまりうた》で、今でも福岡の子守女は唄っているそうで御座います。
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「イッチョはじまり一キリカンジョ……
一本棒で暮すは大塚どんよ。(杖術《じょうじゅつ》の先生のこと)
二ョーボで暮すは井ノ口どんよ。
三宝で暮すが長沢どんよ。(櫛田神社の神主様のこと)
四わんぼうで暮すが寺倉(金貸)どんよ。
五めんなされよアラ六《む》ずかしや。
七ツなんでも焼きもち焼いて。
九めん十めんなさらばなされ。
眼ひき袖引きゃ妾《わたし》のままよ。
孩児《やや》が出来ても妾の腹よ。
あなたのお腹《なか》は借りまいものよ。
主《ぬし》は誰ともおしゃらばおしゃれ。
生んだその子にシルシはないが。
思うたお方にチョット生きうつし。
あらイッコイッコ上がった」
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 と申しますのですが、私が、このよう
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