ついております。
「あなたのお母様は絵のようだと申し上げたいが、絵よりもズウットズウットお美しい」
とある人は申しました。
「女でさえ惚れ惚れする」
と云って昆布売りの女が見かえり見かえり出て行ったこともあります。嘘か本当か存じませぬが、その頃の福岡の流行《はや》り歌に、
「みなさんみなさん、福岡博多で、釣り合いとれぬが何じゃいナ。トコトンヤレトンヤレナ。あれは井《い》ノ口《ぐち》旦那と奥さん。中洲に(泣かずに)仲よく、暮すが不思議じゃないかいな。トコトンヤレトンヤレナア」
というのがあったと誰からか聞いておぼえておりますが、教えた人は忘れてしまいました。
けれどもお母様のホントの不思議と申しますのは、そんな事ではありませんでした。
「あなたのお母様は、私と同じ指を持っておいでになるのに、どうしてあのように不思議なお仕事が、お出来になるのでしょう」
というのは、うちに来られる人のみんなが皆言う事でした。私のお母様は、そんなにまで人が不思議がる程、指先のお仕事がお上手なのでした。
私が八歳の冬まで生きておいでになりましたお祖母《ばあ》様や、オセキ婆さんや、人様のお話によります
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