廷に於てアリナの貞操に関し黒白《こくびゃく》を争うこととなりしが、従男爵は、その黒髪青年の肖像画と同じ人物の存在を固く主張せしに対し、アリナ夫人の実父の味方となりし医師、兼、弁護士ランドルフ・タリスマン氏は頑強なる抗弁を試みて一歩も退かず。結局同氏は態々《わざわざ》仏国に渡りて件の肖像画を描きし画工を伴い来り、その画像が元来英国に於て描かれしものに非《あら》ず、西班牙《スペイン》の一闘牛士の死亡したるに依り、その愛人の好みに任せて狩猟服を着たる姿を該《がい》画工が執筆せしものなるが、評判の傑作なりしためその製作の途中に於て盗難に罹《かか》り、転々して英国に渡りたるものなるを以て、細部に於て未完成なる部分が多々ある旨《むね》を一々その画工に指摘せしめつ。次いでタリスマン氏は、画面上に印せられたる新旧幾多の接吻頬ずりのあと、涙の痕跡、及《および》画面に身を支えたる指の痕《あと》と、アリナ夫人の身長指紋その他が完全に一致するところより、アリナ夫人がかねてよりこの画像に叶わぬ恋心を捧げおりし事を立証し、同夫人が嘗《かつ》て尼寺に入《い》らむとせし心理の真相を明白にして、その貞操の肉体的に純潔不
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