に在る「鷹が宿」という由緒ある家柄に生れしアリナ(仮名)と呼べる若き女性を夫人として迎えけるが、この女性は元来絶世の美人なりしにも拘わらず、何故《なにゆえ》か八方より申込み来る婚約を悉く謝絶しおり。尼となりて修道院に入らむと、志しおりしものなりしを、八方より手を尽して、辛うじて貰い受けしものなりければ、従男爵の満悦|譬《たと》うべくもあらず。身方《みかた》の親戚知友はもとより新夫人の両親骨肉|及《および》「鷹の宿」の隣家に住める医師、兼、弁護士の免状所有者にして、篤学《とくがく》の聞え高きランドルフ・タリスマン氏迄も招待して、盛大なる華燭の典を挙げ、附近住民をして羨望渇仰の眼を瞠《みは》らしめぬ。
 さる程にアリナ新夫人はやがて、従男爵の胤《たね》を宿しつ。月満ちて玉の如き男子を生み落しけるが、その児《こ》の顔貌一眼見るより従男爵の面色は忽然《こつぜん》として一変し、声を荒らげて云いけるよう。
「吾家には代々|斯《かく》の如き漆黒の毛髪を有せるもの一人も生れたる事なし。又汝が家の系統にもさる者なきは人の知るところにして、汝を吾が妻として迎えたる理由も亦、その点に懸って存するを知らざりし
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