。王妃も亦床上に横たわりつつ、所在なき折々はその黒奴の肖像を熟視しおられしが、やがて月満ちて生れし孩児《がいじ》を見れば、眉目清秀なる王の胤《たね》と思いきや、真っ黒々の黒ん坊なりしかば王妃の驚き一方《ひとかた》ならず、そのまま悶絶して息絶えなむばかりなりしは左《さ》もありなむ。
 然るに斯《か》くと知りたる王の驚愕と憤激も亦一方ならず。直ちに兵士に命じて王妃を監禁すると同時に、当時召し使い給いし黒奴を悉《ことごと》く搦《から》め取って獄舎に投じ、一々拷問にかけ給いけれども、固《もと》より身に覚えなき者共の事とて白状する者一人もなく、遂《つい》に由々《ゆゆ》しき疑獄の姿とぞなりにける。
 然るに又、その当時、雅典《アテネ》市に、ヒポクラテスとなん呼べる老医師あり。その徳望と、学識と、手腕と、共に一世に冠絶せる人物なりしが、この事を伝え聞くや態々《わざわざ》王の御前《ごぜん》に出頭し、姙娠中の婦女子が或る人の姿を思い込み、又、或る一定の形状色彩のものを気長く思念し、又、凝視する時は、その人の姿、又は、その物品の形状色彩に似たる児の生まるべき事、必ずしも不合理に非《あら》ざるべきを、例を挙
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