第五章 人身の妖異 その一 姙娠奇談
人身の妖異、その他に関する法医学上の興味ある挿話も亦《また》決して珍らしからず。中にも最も人の意表に出《い》づるものあるは姙娠に関する奇談にして、到底コンモンセンスにては判断し得べからざるもの多し。
その第一に掲《かか》ぐべきは昔(西暦紀元前三百七十年前後)希臘《ギリシャ》の国の一王妃の身の上に起りし奇蹟的現象なり。
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◇訳者|曰《いわ》く=憾《うら》むらくはこの原文には、その王と王妃の名を明記し在《あ》らず。当時希臘国内は雅典《アテネ》市を除くのほか、数個の専制的君主国が分立しおりしを以て、この事件の起りしもその中の一国なりと推測せらる。
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その王妃は冊立《さくりつ》後間もなく身ごもり給いて、明け暮れ一室に起臥しつつ紡績と静養とを事とせられしが、その室《へや》の※[#「木+眉」、第3水準1−85−86]間《びかん》には、先王の身代りとなりて忠死せし黒奴《こくど》の肖像画が唯《ただ》一個掲げあり。その状貌|宛《あた》かも王妃の臥床を視下《みおろ》しつつ微笑を含みおれるが如く然《しか》り
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