だ》き締めて泣き濡れましたことでしょう。
そうして幾度思い返しましても、そうした運命にこの身を委せて、あなた様にお眼にかかって、この秘密をお打ち明けするよりほかに道はない。そうしたならば、あなた様と私の病気もおのずと癒《なお》ってしまうのかも知れない。イエイエ、あなた様と私とが、かように同じ病気にたおれましたのは、そうした眼に見えませぬ運命の手が、自分勝手にあなた様から離れて行こうと致しました私を、ぜひともお傍へ引きもどすための、不思議な親切からしてくれたことかも知れない……というような果敢《はか》ない、遣る瀬のない思いに胸をときめかせながら、いく度あなた様へ差上げるお手紙を書き直しましたことか。お恥かしい心と、つたない文章が気になりまして何枚ペーパを破り棄てましたことか。
とは申せ、そうした私の思いは、おおかた高い熱に浮かされておりました私の、まぼろしでしか御座いませんでしたでしょう。私は間もなく現実に目ざめなければなりませんでした。
そのようにして、いく度もいく度も貴方様に差し上げる手紙を書き直しておりますうちに、私はもう、もどかしくてもどかしくて堪えられないようになりました。すぐにも貴方様にお眼もじしなければ死んでしまいそうな思いに一パイになってしまいました。このままにお手紙を書いておりましたならば眼が眩《くら》んで、たおれるかも知れないと思うほど息苦しくなりましたので、すぐに宿の払いを済ましまして、他眼《ひとめ》をさけて、あなた様の御見舞に伺うつもりで、すこしばかりの手荷物を纏めかけたので御座いましたが、そのうちに博多で求めました灰色のブランケットを畳んでおりますと間もなく、私は又も、二度目の喀血を致しましたので御座います。
どうぞお許し下さいませ。
その時に私は、毛布の上に突伏《つっぷ》しながら、あなた様と私との運命が、みじめに打ちくだかれて行く姿をハッキリとまぼろしに見ました。青い青い、広い広い、大空か海かわかりませぬ清らかな、美しいものが、お互いに血をはきながらもシッカリと一ツに抱《いだ》き合っている、あなた様と私の身体《からだ》を吸い込もうとして、はるかの向うにピカピカと光りながら待っているのが見えました。そうしてあなた様と私とがズンズンとその方に吸い寄せられて行きますのが、何ともいえませず気持ちよく思われました。
けれども、そのまぼろし
前へ
次へ
全64ページ中9ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング