ダムの話をきかれる態度や、相槌の打ち方が、いつもよりもすこし熱心過ぎたり……
……お茶碗を差し出しながら、思わず態度を勿体ぶったり……
……「ああ美味《おいし》かった」という言葉のおしまいがけが、いつもよりも心もち感傷的に響いたり……ETC……ETC……
マダムは、しかしそれでも、やっぱりスマアして、ニコニコしておられるのでした。それでいてこうした御主人の心理的な変化を、極めて隅々のデリケートなところまで見逃がさずに見て取られるのでした。そうして、その冷静な、すきとおった判断にかけて、イヨイヨ間違いがないと思われると、やっぱりスマアしてニコニコしたままお膳を下げて、お湯に這入《はい》られるのでした。
マダムの湯上りのお化粧は、そんな晩に限って特別に濃厚に、一種の暗示的な技巧を凝《こ》らして仕上げられるのでした。そうして御主人に内証で買われたスバラシク派手な着物とか、帯とか、上等の装身具なんどの中《うち》の一つか二つかをこれ見よがしに身に着けて、やはり無技巧の技巧を冴えかえらせながら、無言のまま、ニコニコと御主人の前に出て、美味しいお茶を入れられるのでした。実は泣きたいような御主
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