人の笑い顔をホノボノと見返されるのでした。そうして疲れておられる御主人を、もう決してほかの女とは遊ばないと決心させるほど……それほど徹底的にニコニコ責めに責め上げられるのでした。
 こうした技巧を凡《およ》そ四五遍もくり返して行かれるうちに、マダムはとうとうその御主人を完全に征服してしまわれました。無技巧の愛を百パーセントに占領されることになりました。
 けれどもその御主人は、それから二三年経つうちに神経衰弱にかかって世を早められましたので、マダムは賢夫人の名の下に沢山の財産を受け嗣がれる事になりました。
 マダムはこのごろ、こんな事を考えられるようになられました。
「妾《わたし》のせいじゃなかったか知らん。男ってものは時々|他所《よそ》へ泊らせないと、いけないものかも知れない」……と……。


       ◇

 ある処に一人のフラウがありました。
 その御主人は有名な遊び屋で、お二人のアパートに帰られる事は三日に一度ぐらいしかないのでしたが、それでいてお二人の間はトテモ、シックリとした甘ったるいものでした。否、むしろフラウの方がオッカナ、ビックリ仕掛けで、御主人の機嫌を取り取り送
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