が、何ともいえずよくてよくてたまらないでおいでになるので、わざと手をかえ品をかえて、そんな風を装って、あなたを挑発しておいでになるのですよ。ですから、あなたはソンナ意味でやっぱり御主人に欺されておいでになるのですよ」
オクサマは開《あ》いた口が塞《ふさ》がりませんでした。そうして一層ヒス気分を高潮させながら、
「人を馬鹿にしている。そんなら主人に思い知らせてやる。相手をなくして困らせてやる。そうして今までのカタキを取ってやる」
と仰言《おっしゃ》って、未亡人が止められるのも聞かずに無理やりに離婚の手続きをしてしまわれました。
前の御主人が、その忠告をされた未亡人と正式に結婚をされましたのは、それから間もなくの事でした。それを御覧になった前の奥様はフンガイされまいことか、土けむりを蹴立てて怒鳴り込まれましたが、もはやアト、ノ、マツリでした。シッカリ者の未亡人に何の苦もなく撃退されてしまいました。
前の御主人と未亡人とはズット前から方々で出会っておられた……そうしてその証跡をかくすために御主人は待合に泊ったように見せかけておられた……しかも、それは未亡人の入れ智恵であった……という
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