いていた場合(御自分のかも知れないと思われた時でも念のため)……
……御主人の着物に、新しい、違った畳み目が付いていたとき……
……御主人が忘れ物を発見しながら、強《し》いて探そうとされなかった時……
……お帰りになると、すぐに御主人がグーグーとお寝みになった時……
……違った香水のにおいがする時……
……鼻紙やハンカチがお出かけの時のと違っていた場合……
……履物にキレイな砂がついていた場合……エトセトラ……エトセトラ……
ところが或る時のこと、オクサマがお友達の若い未亡人を訪問されました序《ついで》に、この話をされまして「主人はイクラ打っても小突いても平気なのですよ。まるで良心のない人間みたようにニコニコしているもんですから、あたしは、なおの事腹が立って腹が立って……」とサンザンに泣いて訴えられますと、未亡人はつつましやかに溜め息を洩らしながらコンナ忠告をされました。
「それは貴女《あなた》が男の方の気持ちをまだホントウに御存じないからですよ。お話の通りならば、あなたの御主人様は、まだ一度も茶屋遊びをなすった事がおありにならないのですよ。ただ貴女からの小突かれあんばい
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