事が判明したのも、やはり、それから間もなくの事でした。


       ◇

 あるところに一人のマダムが居《お》られました。
 そのマダムは、その御主人と共々に、社交界でも飛び切りにリファインされた、押しも押されもせぬカプルと評価づけられておりましたが、それだけにその御主人が隠れ遊びをされる方法とても、実にリファインされたものでした。無二の親友と称する人々でも、そんな事実を知らなかった位で、如何なる名探偵でも、その証拠を指摘するのは困難であろうと思われるくらいでした。
 ところが、そのマダムばかりは、いつも、たやすくその事実を看破しておられました。
 マダムは新聞や雑誌をよく読んで、時代に対するアラユル理解力を奮《ふる》っておられました。そうして現代がスピードとエロの時代である事を、飲み込み過ぎるほど、のみこんでおられました。
 ……遊廓や待合や、又は御神燈なぞいうものは、もはや明治大正時代の遺物となりかけている……
 ……バーや、カフェーや、パーラー、レストランなんぞは勿論のこと、クラブ、ホール、ホテル、なんども申すまでもない事、そのほかの思いもかけぬまじめな商売の名の下《もと》
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