響を作りながら………………。
「モシモシ……モシモシイ」
 と濁った声で呼びながら、私の胸の上に手をかけて、揺すぶり起す者がある。ハッと気が付いて眼を見開くと、痛いほど眩《まぶ》しい白昼《まひる》の光線が流れ込んだので、私は又シッカリと眼を閉じてしまった。
「モシモシ。新東《しんとう》さん新東さん。どうかなすったんですか。もうじき廻診ですよ」
 という男の胴間声《どうまごえ》が、急に耳元に近づいて来た。
 私は今一度、思い切って眼を見開いた。シビレの切れかかったボンノクボを枕に凭《もた》せかけたまま、ウソウソと四周《あたり》を見まわした。
 たしかに真昼間《まっぴるま》である。奎洋堂病院の二等室である。タッタ今、夢の中………どうしても夢としか思えない……で見た深夜の光景はアトカタも無い。今しがた私の右脚が出て行った廊下の、モウ一つ向うの窓の外には、和《な》ごやかな太陽の光りが満ち満ちて、エニシダの黄色い花と、深緑の糸の乱れが、窓|硝子《がらす》一パイになって透きとおっている。その向うの、ダリヤの花壇越しに見える特等病室の窓に、昨日《きのう》までは見かけなかった白麻の、素晴らしいドローン
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