がトテモ眩《まぶ》しくて美しかった。
 私はその美しさに心を惹かるるともなく、ボンヤリと見惚《みと》れていたが、そのうちに又、奇妙な事に気が付いた。
 気のせいか知れないけれども、病院中がヒッソリと寝鎮《ねしず》まっている中に、玄関の方向から特等室の前の廊下へかけては、何かしらバタバタと足音がしているようである。そう思って見ると、その特等室の眩《まぶ》しい電燈の光りまでもブルブルと震えているようで、人影は見えないけれども室《へや》の中まで何かしら混雑しているらしい気はいが感じられるようである。……もしかしたら歌原未亡人の容態が変ったのかも知れない……と思ううちに、どこか遠くからケタタマしく自動車の警笛《サイレン》が聞えて、素晴らしい速度《スピード》でグングンこっちへ近付いて来た。そうして間もなく病院の前の曲り角で、二三度ブーブーと鳴らしながらピッタリと止まった。……と思って見ているうちに、今度は特等室の電燈がパッと消えた。ドローンウォークの花模様のネガチブをハッキリと、私の網膜に残したまま……。
 その瞬間に……サテは歌原未亡人が死んだのだな……と私は直覚した。そうして……タッタ今死体
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