のうちに非常に疲れてしまったらしい。私は思わずグッスリと眠ってしまった。しかし余り長く眠ったようにも思わないうちに眼を醒ますと、いつの間にか日が暮れていて、窓の外には青い月影が映っている。その光りで室《へや》の中も薄明《うすあか》くなっているが、青木はまだ帰っていないらしく、夜具を畳んだままの寝台の上に、私の松葉杖が二本とも並べて投げ出してある。大方、私が眠っているうちに看護婦が来て、室《へや》の掃除をしたものであろう。
 いったい何時頃かしらんと思って、枕元の腕時計を月あかりに透かしてみると驚いた……四時をすこしまわっている。恐ろしくよく寝たものだ。ことによると時計が違っているのかも知れないが、それにしても病院中が森閑《しんかん》となっているのだから、真夜中には違い無いであろう。とにかく用を足して本当に寝る事にしようと思い思い、もう一度窓の外を振り返ると、その時にタッタ今まで真暗《まっくら》であった窓の向うの特等病室の電燈が、真白に輝き出しているのに気が付いた。こっちの窓一パイに乱れかかっているエニシダの枝|越《ごし》に、白いドローンウォークの花模様が、青紫色の光明を反射さしているの
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