》がらなくなった。そのまま眼球《めだま》ばかり動かして、キョロキョロとそこいらを見まわしていたようであったが、そのうちにハッと眼を据《す》えると、私の全身がゾーッと粟立《あわだ》って来た。両方の眼を拳固《げんこ》で力一パイこすりまわした。寝台の足の先の処をジイッと凝視《みつめ》たまま、石像のように固くなった。
 ……私の右足がニューとそこに突っ立っている。
 それは私の右足に相違ない……瘠《や》せこけた、青白い股の切り口が、薄桃色にクルクルと引っ括《くく》っている。……そのまん中から灰色の大腿骨《だいたいこつ》が一寸《いっすん》ばかり抜け出している。……その膝っ小僧の曲り目の処へ、小さなミットの形をした肉腫が、血の気《け》を無くしたまま、シッカリと獅噛《しが》み付いている。
 ……それはタッタ今、寝台から辷《すべ》り降りたまんまジッとしていたものらしい。リノリウム張りの床の上に足の平《ひら》を当てて、尺蠖《しゃくとりむし》のように一本立ちをしていた。そうして全体の中心を取るかのように、薄くらがりの中でフウラリフウラリと、前後左右に傾いていたが、そのうちに心もち「く」の字|型《なり》に曲
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