る。
窓の外には黒い空が垂直に屹立《きった》っている。
その電燈の向うの壁際にはモウ一つ鉄の寝台があって、その上に逞《たくま》しい大男が向うむきに寝ている。脱《ぬ》けはだかったドテラの襟元から、半出来の龍の刺青《ほりもの》をあらわして、まん中の薄くなったイガ栗頭と、鬚《ひげ》だらけの達磨《だるま》みたいな横顔を見せている。
その枕元の茶器棚には、可愛い桃の小枝を挿《さ》した薬瓶が乗っかっている。妙な、トンチンカンな光景……。
……そうだ。私は入院しているのだ。ここは東京の築地の奎洋堂《けいようどう》という大きな外科病院の二等室なのだ。向うむきに寝ている大男は私の同室患者で、青木という大連《たいれん》の八百屋さんである。その枕元の桃の小枝は、昨日《きのう》私の妹の美代子が、見舞いに来た時に挿して行ったものだ……。
……こんな事をボンヤリと考えているうちに、又も右脚の膝小僧の処が、ズキンズキンと飛び上る程|疼《いた》んだ。私は思わず毛布の上から、そこを圧《おさ》え付けようとしたが、又、ハッと気が付いた。
……無い方の足が痛んだのだ……今のは……。
私は開《あ》いた口が塞《ふさ
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