疼《いた》み出したので、私はビックリして跳ね起きた。何かしら鋭い刃物で突き刺されたような痛みであった……
 ……と思い思い、半分夢心地のまま、そのあたりと思う処を両手で探りまわしてみると……
 ……私は又ドキンとした。眼がハッキリと醒《さ》めてしまった。
 ……私の右足が無い……
 私の右足は股《もも》の付根の処からスッポリと消失せている。毛布の上から叩《たた》いても……毛布をめくっても見当らない。小さな禿頭《はげあたま》のようにブルブル震えている股の切口と、ブクブクした敷蒲団ばかりである。
 しかし片っ方の左足はチャンと胴体にくっ付いている。縒《よ》れ縒《よ》れのタオル寝巻の下に折れ曲って、垢《あか》だらけの足首を覗《のぞ》かせている。それだのに右足はいくら探しても無い。タッタ今飛び上るほど疼《いた》んだキリ、影も形も無くなっている。
 これはどうした事であろう……怪訝《おか》しい。不思議だ。
 私はねぼけ眼《まなこ》をこすりこすり、そこいらを見まわした。
 森閑《しんかん》とした真夜中である。
 黒いメリンスの風呂敷に包《くる》まった十|燭《しょく》の電燈が、眼の前にブラ下がってい
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