青木の方へ向き直った。
「ハーア。足の夢ですか」
「そうなんです。先生。私《あっし》も足が無くなった当時は、足の夢をよく見たもんですが、新東さんはきょう初めて見られたんで、トテも気味を悪がって御座るんです」
「アハハハハ。その足の夢ですか。ハハア。よくソンナ話を聞きますが、よっぽど気味がわるいものらしいですね」
「ねえ先生。あれは脊髄《せきずい》神経が見る夢なんでげしょう」
「ヤッ……こいつは……」
と柳井副院長は、チョット面喰ったらしく、頭を掻いて、苦笑した。
「えらい事を知っていますね貴方は……」
「ナアニ。私《あっし》はこの前の時に、ここの院長さんから聞かしてもらったんです。脊髄神経の中に残っている足の神経が見る夢だ……といったようなお話を伺ったように思うんですが」
「アハハハハ。イヤ。何も脊髄神経に限った事はないんです。脳神経の錯覚も混《まじ》っているでしょうよ」
「ヘヘーエ。脳神経……」
「そうです。何しろ手術の直後というものは、麻酔の疲れが残っていますし、それから後の痛みが非道《ひど》いので、誰でも多少の神経衰弱にかかるのです。その上に運動不足とか、消化不良とかが、一緒に
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