的ですから、もう近いうちに義足の型が取れるでしょう」
 私はやはり黙ったまま頭を下げた。われながら見すぼらしい恰好で……。「罪人は、罪を犯した時には、自分を罪人とも何とも思わないけれど、手錠をかけられると初めて罪人らしい気持になる」と聞いていたが、その通りに違いないと思った。手術を受けた時はチットもそんな気がしなかったが、タッタ今義足という言葉を聞くと同時に、スッカリ片輪《かたわ》らしい、情ない気もちになってしまった。
「……何なら今日の午後あたりから、松葉杖を突いて廊下を歩いて見られるのもいいでしょう。義足が出来たにしましても、松葉杖に慣れておかれる必要がありますからね」
「……どうです。私《あたし》が云った通りでしょう」
 と青木が如何にも自慢そうに横合いから口を出した。外出してもいいと聞いたので、一層浮き浮きしているらしい。
「新東さんは先刻《さっき》から足の夢を見られたんですよ」
 私は「余計な事を云うな」という風に、頬を膨《ふく》らして青木の方を睨《にら》んだが、生憎《あいにく》、青木の顔は、副院長の身体《からだ》の蔭になっているので通じなかった。
 その中《うち》に副院長は
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