日の午後あたりは、ソロソロと外を歩いてみられてもいいです」
「エッ。もういいんですか」
「ええ。そうして、痛むか痛まないか様子を御覧になって、イヨイヨ大丈夫ときまってから、退院されるといいですな。御遠方ですから……」
青木は乞食みたいにピョコピョコと頭ばかり下げたが、よっぽど嬉しかったと見える。
「お蔭様で……お蔭様で……」
そう云う青木を看護婦と一緒に、尻目にかけながら副院長は、私の方に向き直った。そうして一《ひ》と通り繃帯の下を見まわると、看護婦がさし出した膿盤《のうばん》を押し退《の》けながら、私の顔を見て、女のようにニッコリした。
「もうあまり痛くないでしょう」
私は無愛想にうなずきつつ、ピカピカ光る副院長の鼻眼鏡を見上げた。又も、何とはなしに憂鬱《ゆううつ》になりながら……。
「体温は何ぼかね」
と副院長は傍《そば》の看護婦に訊いた。
私は無言のまま、最前《さっき》から挟んでおいた体温器を取り出して、副院長の前にさし出した。
「六度二分。……ハハア……昨日《きのう》とかわりませんな。貴方も経過が特別にいいようです。スッカリ癒合《ゆごう》していますし、切口の恰好も理想
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