来る事もありますので、飛んでもない夢を見たり、酷《ひど》く憂鬱になったりする訳ですね。中にはかなりに高度な夢遊病を起す人もあるらしいのですが……現にこの病院を夜中に脱《ぬ》け出して、日比谷あたりまで行って、ブッ倒れていた例がズット前にあったそうです。私は見なかったですけれども……」
「ヘエ、そいつあ驚きましたね。片っ方の足が無いのに、どうしてあんなに遠くまで行けるんでしょう」
「それあ解りませんがね。誰も見ていた人がないのですから。しかし、どうかして片足で歩いて行くのは事実らしいですな。欧洲大戦後にも、よく、そんな話をききましたよ。甚《はなは》だしいのになると或る温柔《おとな》しい軍人が、片足を切断されると間もなく夢中遊行を起すようになって、自分でも知らないうちに、他所《よそ》のものを盗んで来る事が屡《しばしば》あるようになった。しかも、それはみんな自分が欲しいと思っていた品物ばかりなのに、盗んだ場所をチットモ記憶しないので困ってしまった。とうとうおしまいには遠方に居る自分の恋人を殺してしまったので、スッカリ悲観したらしく、その旨《むね》を書き残して自殺した……というような話が報告され
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