るのは年老《としと》った女中頭が一人と、赤十字から来た看護婦が二人と、都合四人キリよ」
「でもお見舞人で一パイだろう」
「イイエ。玄関に書生さんが二人、今朝《けさ》早くから頑張っていて、専務取締とかいう頭の禿《はげ》た紳士のほかは、みんな玄関払いにしているから、病室の中は静かなもんよ。それでも自動車が後から後から押しかけて来て、立派な紳士が入れ代り立ち代り、名刺を置いては帰って行くの」
「フ――ン、豪気なもんだナ。ソ――ッと病室を覗くわけには行かないかナ」
「駄目よ。トテモ。妾《わたし》達でさえ這入れないんですもの………。あの室に這入れるのは副院長さんだけよ」
「何だってソンナに用心するんだろう」
「それがね……それが泥棒の用心らしいから癪《しゃく》に障《さわ》るじゃないの。威張っているだけでも沢山なのにサア」
「ウ――ム。シコタマ持ち込んでいるんだな」
「そうよ。何しろ旅支度のまんまで入院したんだから、宝石だけでも大変なもんですってサア」
「そんな物あ病院の金庫に入れとけあいいのに……」
「それがね。あの歌原未亡人っていうのは、日本でも指折りの宝石キチガイでね。世界でも珍らしい上等の
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