ダイヤを、幾個《いくつ》も仕舞い込んだ革のサックを、誰にもわからないように肌身に着けて持っているんですってさあ」
「厄介な道楽だナ。しかし、そんなものを持っている事がどうしてわかったんだ」
「それがトテモ面白いのよ。誰でも全身麻酔にかかると、飛んでもない秘密をペラペラ喋舌《しゃべ》るもの………っていう事を歌原未亡人は誰からか聞いて知っていたんでしょう。副院長さんが、それでは全身麻酔に致しますよって云うと直ぐにね。懐《ふところ》の奥の方から小さな革のサックを出して、これを済みませんが貴方の手で、病院の金庫に入れといて下さいって云ったのよ。そうして全身麻酔にかかると間もなく、そのサックの中の宝石の事を、幾度も幾度も副院長に念を押して聞いたのでスッカリ解っちゃったのよ」
「フ――ン。じゃ副院長だけ信用されているんだナ」
「ええ。あんな男前の人だから、未亡人《おくさん》の気に入るくらい何でもないでしょうよ」
「ハハハハハ嫉《や》いてやがら……」
「嫉けやしないけど危いもんだわ」
「何とかいったっけな。エート。胴忘《どうわす》れしちゃった。副院長の名前は……」
「柳井《やない》さんよ」
「そうそ
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