鉢が、幾つも並んでいるのが不思議と仰有《おっしゃ》るのでしょう」
「……そ……その通りその通り……千里眼千里眼……尤《もっと》もチューリップはここから見えませんがね。あれは一体どなた様が御入院遊ばしたのですか」
「あれはね……」
と看護婦は、急にニヤニヤ笑い出しながら引返《ひっかえ》して来た。真赤な唇をユの字型に歪《ゆが》めて私の寝台の端に腰をかけた。
「あれはね……青木さんがビックリする人よ」
「ヘエ――ッ。あっしの昔なじみか何かで……」
「プッ。馬鹿ねアンタは……乗り出して来たって駄目よ。そんな安っぽい人じゃないのよ」
「オヤオヤ……ガッカリ……」
「それあトテモ素敵な別嬪《べっぴん》さんですよ。ホホホホホ……。青木さん……見たいでしょう」
「聞いただけでもゾ――ッとするね。どっかの筥入娘《はこいりむすめ》か何か……」
「イイエ。どうしてどうして。そんなありふれた御連中じゃないの」
「……そ……それじゃどこかの病院の看護婦さんか何か……」
「……プーッ……馬鹿にしちゃ嫌《いや》よ。勿体《もったい》なくも歌原男爵の未亡人《びぼうじん》様よ」
「ゲ――ッ……あの千万長者の……」
「ホ
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