るせいか、どこでもイケゾンザイで生意気だそうで、この病院でも、コンナ無作法な仕打ちは珍らしくないのであった。だから私は温柔《おとな》しく体温器を受け取って腋《わき》の下に挟んだ。
「こっちには寄こさないのかね」
 と横合いから青木が頓狂《とんきょう》な声を出した。すると出て行きかけた看護婦がツンとしたまま振り返った。
「熱があるのですか」
「大いにあるんです。ベラ棒に高い熱が……」
「風邪でも引いたんですか」
「お気の毒様……あなたに惚れたんです。おかげで死ぬくらい熱が……」
「タント馬鹿になさい」
「アハハハハハハハハ」
 看護婦は怒った身ぶりをして出て行きかけた。
「……オットオット……チョットチョット。チョチョチョチョチョチョット……」
「ウルサイわねえ。何ですか。尿器ですか」
「イヤ。尿瓶《しびん》ぐらいの事なら、自分で都合が出来るんですが……エエ。その何です。チョットお伺いしたいことがあるんです」
「イヤに御丁寧ね……何ですか」
「イヤ。別に何てこともないんですが……あの……向うの特別室ですね」
「ハア……舶来の飛び切りのリネンのカーテンが掛かって、何十円もするチューリップの
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