輝いていた。その光りの輪の中に印されている、あるかないかの二つの靴痕の上に、私の推理力は一人の女を連れて来て十四号室の方に向って立たせた。私はその姿を皆によく飲み込ませるために、多少の想像を加味しながら、十人に聞えるだけの低い音調で、順を逐《お》うて説明し出した。
「……この淡《うす》い靴痕が女のものである事は説明するまでもないであろう。爪先はこの通り稍《やや》外向きに開いていて、ちょっと見たところ西洋人のように思えるが、それは歩いている間だけで、このボーイの靴痕と向い合って立ち止まった処を見るとこの通り、ずっと爪先が近づいていて、生れ付き真直ぐか、内股に歩くように出来てる日本の女の足の特質を、不用意のうちに暴露している。これは随分永く外国で生活した日本人にでもよく見受ける習慣で、支那人や朝鮮人には絶無と云って差支《さしつかえ》ない。背丈は靴の長さと歩幅であらかた推測出来るものであるが、歩幅はこのような精神の緊張した場合には、非常に違うものだから除外するとして、靴の長さだけで推定すると、日本の女の足としては幾分細長い方で、ちょうど銀行に金を受取りに行った田中春の背恰好と一致する。それに
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