…とすればこの事件の全体が非常にハッキリして来る。これがその女を犯人と認める第二の理由……」
ここまで説明して言葉を切ると、耳を澄ましていた一同は各自《てんで》に夢の醒めたような顔を上げた。そうして如何にも感服した体《てい》で私の顔を見た。飯村部長は低い嘆息の声さえ洩らした。
しかし私はその時に何だか妙に腹が立って来た。これ位の事に感心して刑事事件に足が突込めるものかと思った。そうして……よし……それではここでもう一つ吃驚《びっくり》するものを見せてやろう……と思った矢先に、感心しながらもじっと考えていた熱海検事と志免警部の口から同じ質問が同時に出た。
「その女の特徴は……」
「こっちへお出でなさい」
と云いながら私は入口の扉《ドア》を押し開けて廊下へ出た。そうしてあとから続いてぞろぞろと出て来た十名の先に立って、階段の降り口の処まで来ると、懐中電燈の光りで床の上の女の靴痕を指し示して、
「これをよく御覧なさい」
と云った。
十名の連中は代る代る腰を屈めて床の上を熟視した。そこは階段の向うに在る明り取りの窓から外の光りが明るく指し込んでいたが、それでも自分の懐中電燈の方が強く
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