をじっと見下ろしている私に向って何事かを訴えるべく、無言のまま呼びかけているのではないか……というような疑問がちらちらと私の頭の中に閃めいて仕様がないからであった。
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……もっと私の屍体を研究して下さい。もっとよく調べて下さい。私の死んだ原因は、普通の人間には絶対に解りません。ただ貴方だけにしか解らないようになっているのです。……私は貴方がお出でになるのを待っていたのです。私のこの異常な死方《しにかた》の裏面に隠されている、或る驚くべく、恐るべき秘密を看破して下さるのを一刻千秋の思いで待っていたのです。……私のこの異状な、不自然な、奇抜な死方《しにかた》をもっともっとよく研究して下さい。そうして私の死を無駄にしないようにして下さい。どうぞどうぞお願いします……。
[#ここで字下げ終わり]
……と身動きも出来ず、声も出せない憐れな姿のままに、刻一刻と私に呼びかけているのではないか……というような深刻な疑問が私の頭の中一ぱいに渦巻いて、どうしても屍体の側を離れることが出来なかったからであった。
けれども遺憾ながらこの時の私の頭はこの疑問を解剖するだけの観察力と推理
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