したが、その概要を今までの調査の内容と綜合してみると結局こんな事になるのであった。
岩形圭吾氏は現在|印度《インド》貿易商という触れ込みで、こうした東京一流のホテルに泊っている人物で、又、実際に金持ちらしく見えていたのであるが、その財産というのは、米国の加州辺で稼ぎ溜めたものらしい。これはその服装の好みと、日に焼けた色合いが同地方から来る日本人に共通しているところから、ボーイ|頭《がしら》の折井という男が睨んでいたものだという。そうしてその金は山下町の東洋銀行という銀行に十四万円ばかり当座預金にしてあったのを一昨十二日の午後に殆んど五分の四以上を引き出してしまったので、その銀行の支配人は弱っているだろうという噂《うわさ》である。その事情はやはりこのホテルの会計方の一人で宇田川という男が東洋銀行員の一人と懇意なために、ボーイ仲間の二三人に洩れたものらしい。
それから岩形氏がこのホテルへ来たのは、ちょうど東洋銀行へ金を預け入れた日と同じ日らしかったが、印度貿易商と名乗りながらこれという仕事もないらしく、荷物でも皆無といっていい新しいトランク一つと、やはり新しいスートケース一個で、訪問客
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