ていないから安心しろ。しかし、お前|一寸《ちょっと》その靴を両方とも見せてくれないか」
こう云うとボーイはもとより室《へや》の中の一同は妙な顔をした。しかしボーイは素直に白い半靴を脱いで差出したので、私はそれを両方に提《さ》げて廊下に出たが、やがて帰って来ると、靴をボーイに返して飯村警部に代って訊問し初めた。
「お前は岩形さんを受持っていたんだろう」
「そうです」
「いくつになるね」
「十八になります」
「ハハハハ。十八にしちゃ意気地がなさ過ぎるじゃないか。お前が犯人でない事は……俺が……この狭山が保証する。その代り知っている事は何でもしっかりと返事しなければ駄目だぞ」
「ハイ……」
とボーイはすすり上げながら頭を低《た》れた。私は一層、言葉を柔らげた。
「岩形さんが帰って来たのは昨夜《ゆうべ》の何時頃だったかね」
「……十二時半近くでした。それまで僕は……私は他のお客の相手をして玉を突いてました。そうしたら、仲間の江木がやって来て、お前の旦那は一時間ばかり前に帰って来ているんだぞ。知らないのかと申しましたから、私はすぐにキューを江木に渡して二階に駈け上りました。けれどもその時は…
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