すると、それと殆んど同時に、隣の寝室で岩形氏の屍体を取り巻いていた熱海検事以下十余名の同勢がどかどかと寝室から出て来て私の背後を取り巻いたので、只さえぶるぶると顫《ふる》えながら立っていたボーイはいよいよ顫え上ってしまったらしく、傍に近寄って行く私の顔を、命でも取られるかのように身構えをして見上げた。眼の球を真白に剥き出して、唇の色まで失《な》くしてしまった。
私はわざと、その顔を見向きもしないまま見知り越の、熱海検事を振り返って中折帽を取った。
「何かあれからタネが上りましたか。電話で承わりました以外に……」
まだ若い熱海検事は無言のまま恭《うやうや》しく帽子を脱《と》った。そうして静かに志免警部をかえりみた。
「……ええ。この山本というボーイが何か知っているらしいのですけども……」
と引き取って答えながら飯村警部は又ボーイの顔を見た。
「……ワ……私は……何も知らないんです。何もしやしないんです。僕は……僕は……僕は……」
と突然にボーイが叫び出した。唇はわなわなと顫えて、涙が蒼《あお》ざめた頬を伝い落ちた。私はわざと朗かに笑い出した。
「ハハハハハ。誰もお前を犯人とは思っ
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