充血しているのか、又は、酒のためか、病気のためか、それとも本当に安眠していたのかという事が、今迄の経験上、大抵一眼でわかるので、いよいよ見極めが付かぬ時は、その手段を執るより外に方法はないのである。
 問題の第十四号室は、宮城の方に向って降りて行く階段の処から右へ第五番目の室《へや》であった。その室《へや》の内外は最早《もはや》、既に、鑑識課の連中が、志免警部の指揮の下に、残る隈なく調べ上げている筈であったが、私は念のため入口の扉《ドア》に近付いて、強力な懐中電燈を照しかけながら、その附近に在る足跡を調べて見ると、すぐに眼に付いたのは大きな泥だらけの足跡で、入口の処で、扉《ドア》を推し開くために左右に広く踏みはだけてある。これは疑いもない岩形氏の足跡で、岩形氏が昨夜《ゆうべ》泥酔して帰った事実が容易に推測される。それから私は黄色くピカピカ光っているワニス塗りの扉《ドア》にも、無造作に懐中電燈の光りを投げかけてみると、扉《ドア》の上半部に在る大きな新しい両手の指紋の殆んど全部と、把手《ノッブ》の上に在る右手の不完全な指紋が直ぐに眼に付いた。しかも、それ等の指紋には一つ残らず、ハッキリと白
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