だれたまま、扉《ドア》の鴨居から床の上まで長々と裾を引きはえて吊り下がっているのであった。扉《ドア》を開けた拍子に動いたらしく、青い静脈を透きとおらした両手を、すこしばかり左右にぶらぶらさせていたが、それも間もなく動かなくなってしまった。
その顔を見上げていたゴンクール氏の舌が微かにふるえ出した。髪毛が一本一本に静電気を含んだかのように立ち上り初めた。その口を開《あ》いたままの咽喉《のど》がひくりひくりと動き出し、やがてぐるぐると上下したと思うと、遠い凩《こがらし》に似た声が、氏の全身の力を絞って戦《おのの》き出た。
「……ノブコ……シ……ム……ラ……」
その声がまだ消えないうちに室《へや》中を震撼する大音響が起った。青ペンキ塗りの扉《ドア》がぴったりと閉まったのだ。ゴンクール氏が閉めたのだ。続いて今一つ別の大音響が起った。女の前の丸|卓子《テーブル》がゴンクール氏の足の下で横たおしになった。その上からけし飛んだ珈琲器の一群が、左手の扉《ドア》に跳ねかかって切るような悲鳴をあげた。
その悲鳴を蹴散らしながら、その扉《ドア》を垂れ幕ごと引き開いて、外に飛び出そうとしたゴンクール氏は
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