、広い、淋しい幽冥に引っぱり込まれていた氏の魂が、更に一層深い恐怖に襲われたために藻掻《もが》き初めたものらしい。氏は大浪を打つ呼吸の裡に、光りのない眼をソロソロと開いた。ほとんどあるかないかの努力で、恐ろし気に瞳を這わせつつ、辛うじて左右を見た。恰もそこいらに嬢次親子が立っているかどうかを確かめるように……そうして虫の這うようにそろそろと女を見上げつつ何か云おうとしたが、唯だらりと開いた唇がブルブルと慄《ふる》えるのみで、舌が硬ばっているために声が全く出なかった。それでも氏は云おうと努力した。……一度……二度……三度……目にやっとかすれた声で……殆んど言葉をなさぬ言葉が咽喉《のど》の奥から出た。
「……ア……ア……ナタ……ノ……ナマ……エハ……」
「ホホホホホホ。妾の名前でございますか。貴方はよく御存じでございましょう。ジョージ・クレイでございます」
「……………」
「貴方は最前|仰有《おっしゃ》ったでございましょう。わたくしは嬢次様に乗り移られていると……その通りでございます。わたくしは姿こそ女でございますが、心は呉井嬢次でございます。いいえ。身も心も嬢次様のものでございます。わた
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