り笑いであるだけ、それだけ一層冷やかに物凄く感ぜられた。
 ゴンクール氏の眥《まなじり》はきりきりと釣り上った。女の笑い声の一震動|毎《ごと》にビクビクと動いた。髪の毛は逆立ち、唇を深く噛み締めて、拳銃《ピストル》の柄を砕くる許《ばか》りに握り締めつつじりじりと後退《あとじさ》りをした。その顔面の皮膚の下から見る見る現われて来た兇猛な青筋……残忍な感情を引き釣らせる筋肉……それは宛然《えんぜん》たる悪魔の相好であった。
 神も恐れぬ。人も恐れぬ。法律も道徳も、人情も……血も涙も知らぬ。唯死を恐れぬ者のみを恐るる悪魔の表情であった。悪魔が頼みにしている最後の威嚇手段……死の宣告……に対して平然としているのみならず、これを軽蔑し、これを嘲り笑っている驚くべき霊魂に対して、必死の勇気を絞り集めつつ対抗しようと焦躁《あせ》っている魔神の姿であった。
 女はやがてピタリと笑い止んだ。よろよろとよろけて机に後手を突いて、自分の眉間に正対して震えている白い銃口を見、又、ゴンクール氏の顔を見た。悲し気な笑《えみ》を片頬に浮かめた。そうして淋しい訴えるような口調で物を云い初めたが……その言葉は思いもかけ
前へ 次へ
全471ページ中404ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング