眉間《みけん》に狙いを附けながら距離を取るために二歩ばかり後に退《さが》った。……その素早かったこと……そうして、その態度の見事であったこと……最早《もう》こっちの物……という風に軽く唇を噛んだまま、眉一つ動かさず、最新式大型|拳銃《ピストル》の白光りする銃口を構えて毅然としている有様は、一個の拳銃《ピストル》と一挺の短刀《ダガー》とを以て我意の法律を貫徹して行く、野性亜米利加人そのままの気魄を遺憾なく発揮したものであった。
 しかしこれに相対した女の態度も亦、たしかに歎美に値した。
 女は、いつの間にか椅子を離れて、恰《あたか》も相手の狙いを正しくしてやるように、電燈の側近く立っていた。そうして両手の指をしなやかに組んで観念した心を見せている。その影法師は大きく室《へや》の半分を区切っていて、ゴンクール氏の姿は、その中から浮き出したように見える。
 ややあって軽いけれども底力のある英語がゴンクール氏の唇を洩れた。
「名を云え《ユアネーム》[#「名を云え」のルビ]」
「……………」
 女は答えなかった。ただ徐《しず》かに眼を上げて、鼻の先に静止している銃口越しにゴンクール氏の顔を見た。
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