私はちょっとの間《ま》変に可笑《おか》しくなった。この場合に似合わしくない話だけれども事実であった。何だかお伽話にある獅子の王様が、狐に嘲弄《からか》われている芝居を見るような気がしたからである。けれどもまた、すぐに真面目に返って、二人の言葉を一句も聞き洩らすまいと耳を引っ立てた。
ストーン氏は引き続いて日本語で話し初めた。
「貴方《あなた》のお家《うち》は大変わかりませんね。私は一時間、この村を……町を歩きました。この村は……町は大変広い町です」
「折角お出で下さいましたのに生憎《あいにく》留守でございまして……」
女の声は何となく力がない……響のない声のように思えた。幾分固くなっているせいでもあろうか。けれどもその容色に相応《ふさわ》しい優美な口調ではあった。
「いいえ。どう致しまして、お留守ならば仕方がありませぬ。その代り私はこの室《へや》で休む事が出来ました。今日は大変忙しかったのです。けれども貴女《あなた》には済みませんでしたね」
ストーン氏の日本語は思ったより巧くなって来た。どこで稽古したものか知らぬが、二年や三年の稽古ではこんなにハッキリした巧い調子に行くもので
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