ので……。
 ……しかし……最早こうなっては取り返しが付かない。室《へや》の中の二人の素振りと会話の模様によってもう一度、判断を建てかえて行くよりほかに方法はない……と思い返すと又も、室《へや》の中の光景を一心に覗き込んだ。……何という難解な……不思議な事件であろう……と心の奥底で溜息をおののかせながら……。
 ……と……やがてストーン氏は伏せていた眼を見開いた。大きな、青い、ぎょろっとした眼だ。それからハンカチを取り出して額の上の汗を拭き終ると、女の顔に眼を据えた。女はストーン氏の偉大な体格に圧倒されて、いくらか小さくなっているようであったが、硝子《ガラス》窓の外からは聞えぬくらい微かな、弱々しい声で、
「……どうぞ……」
 と珈琲をすすめた。ストーン氏はいくらか遠慮勝ちに、
「……ハーイ……アリガト……ゴダイマス……」
 と怪《あや》し気な日本語で会釈して、巨大《おおき》な手で赤い小さな百合形《ゆりがた》の皿を抱えたが、それでも咽喉《のど》が乾いていたと見えて美味《おいし》そうに啜《すす》り込んだ。
 女は立ってまた一杯|注《つ》いで角砂糖を添えた。
 ストーン氏は謹んで会釈した。
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