の時計も、この頭蓋骨の凹んだ眼に白眼《にら》まれて、初めて、これだけの深刻な気分を出し得たものと考うべきであろう。どんな気の強い人間でも、この室《へや》に暫く居たならばきっとこの神秘的なような俗悪なような、変てこな気分に影響されずにはいられないであろうと思われるくらいである。
しかし生れつき皮肉な私の眼は、こんな風にしてこの室《へや》の変化に驚きながらも、この時既に、凡《すべ》ての飾り付けの中に多くの胡麻化《ごまか》しがある事を発見していた。
たった今気がついた左右の出入口の、褐色ゴブラン織りの垂れ幕は、青ペンキ塗りの粗末な扉《ドア》を隠すためである。壁際の大机は今まであったものだが、室《へや》の真中の丸|卓子《テーブル》も、私が実験室で使っていた顕微鏡台ではないか。
卓上電燈も笠こそ変っておれ、私が六七年前に古道具屋から提げて来たもので、百燭の青電球も実験室備え付のものに相違ない。本立や書物も同様で、椅子に至ってはただ縮緬の蔽いが……しかも寸法の合わないものが掛かっているだけで、中味は昔のままの剥げちょろけた古物に違いないのである。只そんなものが、色々の贅沢な装飾品で、如何にも
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